働き方改革関連法案によって変わる産業医の役割とは?
<前編>【2019年4月施行:働き方改革】

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人事向け、産業医、働き方改革

2019年03月19日

2018年6月に可決され、もう間もなく施行される「働き方改革関連法案」。「残業時間の上限規制」や「有給休暇取得の義務化」など、働き方に関わる改正に注目が集まっていますが、「産業医」の在り方が変わることはご存知でしょうか?
産業医は「労働者の健康を確保する必要がある」と認めたとき、それを企業に対し勧告する権利を持っていますが、働き方改革関連法の施行によりその権限が強化されることになるのです。
今回は、働き方改革によって産業医の役割がどのように変わっていくのか、また、産業医の求めに対し企業はどのような対応をする必要があるかについて、前後半に分けてご説明していきます。

【そもそも産業医とは何か】

産業医とは、労働者の健康を保持・促進する役割を持った医師のことです。労働者が常時50人以上いる事業場の場合、産業医を1人以上選任する必要があります(※)。
普段あまり関わる機会のない方にとっては、産業医といえば「健康診断」のイメージが強いかもしれませんが、下記のような業務も行っています。

・職場巡視
産業医は少なくとも毎月1回以上(事業者の同意を条件として2月以内ごとに1回以上へ変更も可)職場を巡視し、職場環境の確認を行います。実際に労働者が働く環境を理解し、改善が必要と判断した場合には適切なアドバイスも行います。

・健康診断の実施と結果のチェック
健康診断を実施するだけでなく、診断結果に基づいて生活習慣の改善指導や、就業制限など働き方の改善指導も行います。

・衛生委員会への参加
労働者が常時50人以上いる事業場毎に設置されている衛生委員会。産業医は、この衛生委員会に構成員として参加し、労働者の健康や職場の安全を守るための対策に参画します。

・健康教育・労働衛生教育
生活習慣の改善に関する内容や熱中症予防対策、禁煙・分煙に関する社内体制の整備など、健康管理や衛生管理を目的とした研修を実施します。

・ストレスチェックの実施
2015年(H27年)12月から労働者が常時50人以上いる事業場で義務付けられた、ストレスチェック制度。産業医は、「医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者」の一人としてストレスチェック実施者に任命された場合、事前準備から実施、結果確認、調査結果の保管管理までを担当します。

・休職希望者、復職希望者、高ストレス者、長時間労働者に対する面談指導
休職や復職を希望する方や、ストレスチェックの結果、高ストレス者であり面談が必要と判断された方、長時間労働をした方が面接を希望した場合に対し、産業医は面談を行います。面談を行った結果、本人に対して指導を行うと共に、必要に応じて企業に対してもアドバイスや指導を行います。

・健康相談
「最近良く眠れていない」、「そろそろメタボ予備軍になりそうだが、何から改善すべきか知りたい」など、健康上の気になる点がある方が相談を希望した場合、産業医は相談を受けます。

このように、産業医は労働者の健康を守るだけでなく職場環境をより良くするための助言を行うなど、職場を健康面で支える重要な役割を担っています。

この度施行される「働き方改革関連法案」では、労働者の安全・健康などについて定めた「労働安全衛生法」についても触れられており、これにより産業医の権限が強化されました。その背景には、労働安全衛生法が制定された年(昭和47年)に比べて私たちの働く環境が大きく変化したことが考えられます。また、過労死などの防止対策やメンタルヘルス対策、病気の治療や介護と仕事の両立支援など、労働者の健康と生活を守るために産業医の役割も大きく変わったことが挙げられます。

産業医の選任要件については、「産業医について~その役割を知ってもらうために~」(厚生労働省)を参照下さい。

【産業医にかかわる労働安全衛生法改正の3つのポイント】

それでは、労働安全衛生法改正により産業医の役割はどのように変わるのでしょうか。労働安全衛生法改正の大きなポイントは、「産業医・産業保健機能の強化」「長時間労働者に対する面接指導の強化」の2点ですが、今回は産業医にフォーカスをあて、「産業医・産業保健機能の強化」に関わる項目についてご説明します。

(1)産業医に対する情報提供等の充実・強化(活動環境の整備)

現在、産業医は「労働者の健康を確保するために必要がある」と認めるときは、事業者に対して勧告することができます。

法改正により、事業者は長時間労働者の状況や労働者の業務状況など、労働者の健康管理等を適切に行うために必要な情報を、産業医に提供しなければなりません。
この「提供する情報」には、労働者の作業環境や作業の様子、深夜業務の回数・時間数等、産業医が労働者の働いている状況を判断するために必要と認めたものが含まれます。

より具体的な例をご紹介します。
産業医が長時間労働者と面談をした後、「翌月からは休日残業を禁止したほうが良い」という意見書を事業者に提出したとします。その後、事業者は産業医の意見を受け、措置を行ったのであればその内容を、行わなかったのであれば「行いませんでした」という旨と理由を、産業医に報告しなければなりません。
つまり、産業医の意見に対し、事業者が対応したのか、しなかったのか、しなかったのであれば何故かまでを、産業医はチェックする権限を持ったということになります。

尚、これまでは1カ月の残業時間が100時間を超えた場合において、労働者が申し出れば面談を行うことができるとされていましたが、改正により要件が「月80時間」に引き下がります。これは、働き方改革法案の「残業時間の上限規制」を受けたものです。

(2)産業医の活動と衛生委員会との関係強化(活動環境の整備)

これまでも、事業者は産業医から勧告を受けた場合は、その勧告を“尊重”する義務がありました。

法改正後は、事業者は産業医から受けた勧告の内容を事業場の労使や産業医で構成する衛生委員会に報告しなければなりません。
また、「長時間労働者が多い部署ではどんな業務をしているか調査してください」や「従業員の喫煙率について調べてください」など、産業医が労働者の健康を確保するために必要と判断した際、衛生委員会等に対して調査審議を求めることができます。調査を求められた場合には、事業者側はきちんと調べ結果を産業医に報告しなければなりません。

(3)産業医の独立性・中立性の強化

今回の法改正で、産業医のあり方についての内容が追加されました。それは、「産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならない。」という条文です。これは、産業医が産業医学の専門的立場から、独立性・中立性をもって職務を行うことができるようにするためとされています。

これは、労働者が安心して相談できるよう、また、偏った意見とならないよう、あくまで労使間から一定の距離を保つことを明示した内容です。


産業医・産業保健機能の強化についての詳しい情報については、厚生労働省から 『「産業医・産業保健機能」と「長時間労働者に対する面接指導等」が強化されます 』というタイトルのパンフレットが公表されておりますので、ぜひ参考にされてはいかがでしょうか。

まとめ

ここまで、産業医の役割と、「働き方改革関連法案」の施行により産業医の在り方がどのように変わるかについてご紹介しました。今後、産業医は労働者の健康を守り、職場環境をより良くするために、より一層重要な役割を担うこととなります。
企業は、産業医も企業の一員であると位置づけ、「一緒に課題を解決していく」という意識を持ち、働きやすい環境作りに取り組まれてはいかがでしょうか。
後編では、労働安全衛生法改正ポイントのうち、企業としてどのような対応を行う必要があるのかについてご説明いたします。

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