製造業を巡る2019年の景気と未来を考える【業界動向】

内閣府と財務省が2019年6月に発表した法人企業景気予測調査によると、同年4~6月期における製造業の国内景況判断指数(大企業)は、▲10.4となりました。前回調査結果(2019年1~3月期)の▲7.3から、更に景況感が悪化したことが見て取れます。
しかし、日本経済の屋台骨を支える存在の製造業が、このままであるはずがありません。既に競争力強化に向けて動き始めており、2019年は大変革期に入っています。
このコラムでは、日本の製造業を取り巻く現在の状況や、動向についてご紹介します。製造業の未来がどう展開していくのか、見ていきましょう。

2019年ここまでの製造業の景気

財務総合政策研究所は2019年6月に「法人企業景気予測調査(平成31年4~6月期調査)」を発表しました。この調査結果によると、大企業、中堅企業、中小企業(※)全てにおいて、景況判断指数(BSI)が下降傾向にあることが分かります。

[財務総合政策研究所 法人企業景気予測調査(平成31年4~6月期調査)「国内の景況判断」BSI]

景況判断指数とは、景況が前期と比べて「上昇」「不変」「下降」「不明」であるかを企業が回答し、その割合によって算出されるものです。今回の調査では、大企業の国内景況判断指数が▲3.6となりました。前回調査が▲1.9となっていたため、2期連続の下降です。
国内景況判断指数の落ち込みがとくに顕著に表れていたのが製造業で、大企業では▲8.6(前期は▲6.3)となり、こちらも2期連続の下降となりました。原因はいくつか考えられますが、中でも特に中国経済が減速したことにより、日本の輸出・生産が落ち込んだことが大きく影響しているという意見が多いです。

全産業がマイナス傾向である中、懸念すべきは下半期以降の見込みと言えるでしょう。2019年10月には消費税増税が控えているため、消費税引き上げに伴う「駆け込み需要」があるのではという予想もあってか、次の7~9月の景況判断指数見通しは、製造業も含めた全産業で上昇に転じ、その後の10~12月の見通しは反動によりマイナスに転じると、今回の調査結果で発表されています。

実際に、前回2014年の消費税増税時にも駆け込み需要による「反動」が大きく出ており、全産業で景況判断指数の大幅な上昇と下降が起きました。さらに懸念すべき点としては、駆け込み需要による反動やその後の回復が、見通しよりも悪い結果となった点です。

[財務総合政策研究所 法人企業景気予測調査「国内の景況判断」BSI/第40回~43回 を加工して作成]

来年2020年には、東京オリンピック・パラリンピックが控えています。しかし、オリンピック・パラリンピックがもたらす経済効果が景気拡大にどこまで影響してくれるのか、楽観視はできない状況と言えそうです。

製造業の未来を占う3つのキーワード

経済産業省が2018年3月に発表した「製造業を巡る現状と政策課題~Connected Industriesの深化~」によると、2016年の国内総生産(GDP)における製造業の割合は約21%です。また、就労人口も全体の2割程度を占めていることから、製造業は日本における重要な産業であることが分かります。

しかし、世界経済低調などの影響を受け、日本の製造業が「下降」気味であることは前の段落でお伝えした通りです。こうした中、製造業が再び活気を取り戻すには、どのような施策が必要なのでしょうか?
以下では、製造業の未来を占う3つのキーワードとして「IIoT」、「サービス化」、「デジタルツイン」をピックアップしました。これからの製造業に何が求められているかを、ご説明したいと思います。

キーワード(1)IIoT

「IIoT(インダストリアルIoTまたは、産業用IoT)」とは、製造の分野で活用されるIoTのことです。産業機械・装置・システムなどがインターネットを通じて繋がることにより実現する、サービスやビジネスモデル、またはそれを可能とする技術の総称を指します。このIIoTは、工場内の機械や人の動きをIoTデバイスやシステムを使ってモニタリングし、データを蓄積し、業務の意思決定に関わる作業も自動化しようという考えの「Industry 4.0(第4次工業革命)」において、重要な要素として注目を集めています。
では、製造業の現場でIIoTはどう活用されるのでしょうか。

一番に考えられるのは、製造工程管理の円滑化です。工場内にあるあらゆる機器にセンサーを設置することで、生産工程をたったひとつのプラットフォームで管理できるようになります。
例えば、これまで各々の機器からあげられていたログや異常情報、紙の作業指示書や手書きの作業記録、さらには、ベテランと呼ばれる従業員が培ってきた経験やノウハウ、そういった重要な情報が一元化されることで、情報の確認、管理が容易に行えるようになるだけでなく、業務改善や生産性向上に活用できます。
また、音声認識技術を使い機器の異常音を検知することで、パーツ交換や修理時期を逐一認識することも可能です。機械の「声」を聴き、メンテナンスを最良のタイミングで行うことは、生産ライン全体をスムーズにし、コスト削減にも役立ちます。
ほかにも、製造から流通にいたるまでの様々な場面毎に製品の品質を追跡することで、品質管理の向上に活用したり、在庫状況のデータをリアルタイムで把握し、製造量の調整を自動化するといった活用方法があります。
このようにIIoTには、生産現場を変える力があります。

キーワード(2)サービス化

製造業は、IIoTを活用することで「モノ」を提供する以外にも、デジタル化によって得た情報を付加価値へと発展させ「サービス提供型のビジネスモデル」を展開できるようになりました。しかし、文部科学省と経済産業省、厚生労働省の3省合同で作成している「2018年版ものづくり白書」では、モノに対する相対的価値が低下しているという点が指摘されています。モノだけでは消費者が求めるものを提供できないため、モノとデータサービスを組み合わせた製造業のサービス化が重要だと、企業側は理解する必要があると言えるでしょう。

例えば、あるイギリスの航空用エンジン製造会社では、航空機のエンジンにセンサーを組み込み、稼働管理や運行管理などをリアルタイムで監視しデータを取得、そのデータを基にメンテナンスサービスを提供しています。
また、あるグローバルタイヤメーカーは、タイヤの使用実態を把握することでタイヤを管理する上での課題を見つけ出し、新品タイヤや再生タイヤへの交換、メンテナンスなど、実態に適した組み合わせを提案するサービスを提供しています。タイヤ故障による予期せぬトラブルを未然に防ぐことで、運送事業をスムーズに展開できることに貢献しています。

キーワード(3)デジタルツイン

デジタルツインとは、現実世界にある実際の製品や機器などの情報を、リアルタイムでサイバー空間上に再現できる仕組みのことです。現実世界における製品の動きを完全に再現することで、製品の製造過程・出荷後の使用実態を正確に把握できるという特性があります。

例えば製品設計の工程でデジタルツインを導入すると、既に蓄積されている過去製品の製造工程や出荷後の不具合等に関するデータを入手できます。不具合が起きてしまった問題点の把握・検証の精度を高めることが可能です。また、製品の出荷後もデータ収集・解析をすることで、製品の消耗具合をリアルタイムで把握することができます。部品交換などのメンテナンスを、故障する前にかつ的確なタイミングで行うことができれば、メンテナンスコストを下げるだけでなくサービスの質を高めることができる点も、デジタルツインのメリットです。
2つめのキーワードでご紹介した「サービス化」を実現するための手法の1つとしても、注目されている技術です。
デジタルツインについては、別の記事でも取り上げているので気になる方は是非ご覧ください。

製造業の抱える2つの大きな課題

ここまでで、生産現場とIoT、デジタルが融合することで製造業が活性化され、景気全体にも好影響を与える可能性についてご紹介してきました。しかし、日本におけるICT活用は、他の先進国に比べ大幅に遅れているのが現状です。
経済産業省が発表した「平成30年版情報通信白書」によると、日本企業のICT導入状況はアメリカやドイツに比べ10%~25%程度低くなっています。ICTの導入や利活用による効果について具体的に把握できていない点が、停滞している要因として考えられています。
また、日本の製造業界が以前から抱えている「人材不足」も解決すべき課題です。AI・IoTの導入の課題や障壁として「IoTの導入を先導する組織・人材の不足」と回答した割合が、他国企業と比較して高くなっているという特徴がみられます。今後、生産年齢の人口が更に減少していくことを考えると、業界としての人材不足の課題は深刻であることが伺えます。

まとめ

日本の景況判断指数は、製造業を中心に「下降」傾向にあります。しかし、経営者が変革を恐れず、製造現場のデジタル化を積極的に推進していくことが、巻き返しの鍵と言えるでしょう。
なお、前述の「法人企業景気予測調査(平成31年4~6月期調査)」によると、令和元年度の製造業における設備投資額(ソフトウエアを含む、土地を除く)は9.2%の増加見込みとなっており、リーマンショック後に落ち込んで以来、緩やかながらも増加傾向が続いています。「維持更新」を目的とした設備投資もある中、スマート工場化のためのデジタル技術への投資など、未来に向けた設備投資が業界としてどれほど行われるかが、製造業の来年以降の景気を左右するひとつのポイントになるのではないでしょうか。

今回ご紹介した内容を踏まえつつ、自社の課題と向き合いながら、改めて製造業の未来について考えていくことをおすすめします。

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キーワード(3)でご紹介した「デジタルツイン」について、活用方法や、得られるメリットなどより詳しくご紹介しているコラム『製造現場変革のヒントとなる「デジタルツイン」とは?』は、こちらからお読みいただけます。

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