中小企業におけるIT投資の重要性と成功ポイントとは

「業務のデジタル化」が推進される今の社会において、大企業だけでなく中小企業においてもIT投資の重要性は高まっています。しかし、企業内のITリテラシーの低さや投資費用の負担などの課題により、積極的なIT投資に二の足を踏んでいる中小企業も多いのではないでしょうか。
このコラムでは中小企業の方に向け、改めてIT投資の必要性をご説明した上でIT投資を成功させるためのポイントなどをご紹介します。

なぜIT投資が中小企業にこそ必要なのか

冒頭で挙げた企業内のITリテラシーの低さや費用対効果への懸念とは別に、中小企業の抱えるIT投資の問題として「投資意欲の低さ」も挙げられます。

中小企業庁が公表した2019年版中小企業白書によると、「従業員規模別に見たIoT・AI の導入状況(2017年)」の調査結果において、100~299人規模の中小企業の約54%が「IoT・AIどちらも導入意向はない」と回答しています(300人以上の大企業の同回答割合は約38%)。また、導入しない最大の理由が「導入後のビジネスモデルが不明確」となっている点も、特徴的であると言えます。
つまり、現在IoTやAIを導入していない中小企業の半数以上は、そもそも投資する必然性が見い出せていない状態と考えられます。

[出典:2019年版中小企業白書~第3部:中小企業・小規模企業経営者に期待される自己変革/第1章:構造変化への対応~(中小企業庁)]

前置きが長くなりましたが、同2019年版中小企業白書では「中小企業にとってもIoT・AIを活用することが有益である」という見解を示しており、現在の投資状況を踏まえた上で積極的なIT投資を呼びかけています。中小企業庁がIT投資を推奨している理由については、前年公表した2018年版中小企業白書が参考になるでしょう。「生産性の伸び悩み+人材不足の深刻化」という多くの中小企業が抱えている課題に対して、「IT利活用による労働生産性の向上」が課題解決に向けたアプローチのひとつとして取り上げられています。実際にIT導入後の総合評価として「ITを導入しある程度の効果を得られている」と回答した企業が最も多く、全体の約半数であることからも、労働生産性向上のためにIT投資が有効であることがお分かりいただけるのではないでしょうか。

中小企業のIT投資を成功させる3つのポイント

これまでにあまりIT投資をしてこなかった中小企業にとっては、IT投資は成果が見えづらいものとして認識しているケースもあり、そのことが「投資」に対して躊躇する原因のひとつとなっています。
以下では、IT投資を成功させるためのポイントについて「費用」と「生産性向上成果の最大化」、「効果の見える化」という面から解説します。

ポイント1:補助金を活用する

IT投資と一口に言っても、「ハードウエア」「ソフトウエア」「ITサービス」「情報セキュリティー対策」「IT人材の確保・育成」「Webサイト作成・更新」など様々な投資対象が存在します。当然ながらそれぞれに投資するためには費用が発生し、目的によっては決して小さくはない投資が必要な場合もあります。そこで、できるだけ経営にひびくことのないよう抑えるためにも、補助金の活用を検討してみることをおすすめします。

2019年度、中小企業のIT投資を目的とした補助金としては、「ものづくり補助金」「IT導入補助金」「小規模事業者持続化補助金」の3つがありました。

・ものづくり補助金
その名の通り新しいサービスや製品を開発することを目的とした補助金で、IT投資の費用の一部(100万~1,000万円、導入費用の2/3が上限)をサポートしてくれます。主に事業をスケールアップしたい事業者向けの補助金です。

・IT導入補助金
日々の定型業務の効率化や情報を一元管理するような汎用的なITツールを導入するにあたり、その費用の一部(40万円~450万円、導入費用の1/2が上限)をサポートしてくれます。主に業務効率化を図りたい事業者向けの補助金です。

・小規模事業者持続化補助金
従業員20人以下(卸売業・小売業・サービス業は5人以下)の小規模事業者を対象に、Webサイト作成や会計ツールなどITツール導入費用の一部(~50万円、導入費用の2/3が上限)をサポートしてくれます。主に、初めてIT投資を行うような事業者向けの補助金です。

これら補助金は、年度ごとに受け取れる金額の上限や総予算額が決められているほか、申請を行うための準備が必要なものもあります。また、公募期間が決まっており、短期間で締め切られてしまうものもあるため、ホームページを定期的に確認いただくことをおすすめします。
既に2019年度分については、いずれの補助金も終了しております。しかし、経済産業省が作成した来年度(令和2年度)の概算要求(※)の中で、「中小企業・小規模事業者の生産性向上・デジタル化・働き方改革に重点的に取り組む」との方向性を示しています。今年度よりも予算を拡大しており、また、新しい補助金新設の可能性もあるため、前向きに検討されてはいかがでしょうか。

ポイント2:業務プロセスの見直しを行う

IT投資の検討目的として良く挙げられるのが、「労働生産性の向上」です。
前述の2018年版中小企業白書において、実際にIT投資を行い労働生産性が向上した企業に対し「効果が得られた理由」を聞いたところ、最も多かったのが「業務プロセスの見直しを合わせて行った」という回答でした。他にも「経営陣が陣頭指揮をとった」「外部のコンサルタントを活用した」などの回答もありましたが、IT投資を成功させるためのポイントとしては、システムなどの導入前に現状の業務プロセスを正しく把握し、何が問題になっているのかを洗い出すことが重要であることがこの調査から伺えます。もし、システム導入後になって業務プロセスに問題があった場合、システムごと見直す必要が生じ、余計な手間や修正のための費用がかかる可能性があります。また、「何を改善するためにIT投資するのか」を事前に明確にしておかなければ、IT投資によって何が改善できたのかという判断が出来なくなるため、なるべくIT投資の検討段階で業務プロセスの見直しを行うようにしましょう。

ポイント3:ITに関する相談ができるパートナーを作る

IT導入後の費用対効果について正しい評価ができないのではないかという懸念や、人手不足が叫ばれる中で企業内にIT人材を確保することが難しいと感じている中小企業も多いと思います。人材やノウハウに対する懸念に対しては、相談できるパートナーと共に二人三脚で取り組むことで、解決することをおすすめします。
2018年版中小企業白書においても、中小企業がIT導入を推進するには「相談相手を見つけること」「相談相手からIT導入の効果や評価について教わること」が重要であるとの見解を示しています。ITメーカや販売会社、公認会計士・税理士といったパートナーを作り、日頃の経営相談などに応じてもらうことが、IT導入の重要な鍵になるでしょう。

中小企業のIT投資事例

以下では、IT投資によって労働生産性が向上した中小企業の事例をご紹介します。

事例1:食品製造・販売業 A社

A社では以前より表管理ソフトにて受発注管理や在庫管理などを行っていましたが、手動で転記していたためミスが起こることがあり、都度修正を行うことに手間を感じていました。
IT投資を検討するにあたり、その段階において自社内で自動化・効率化できそうな業務を洗い出したところ、まずは売上管理を自動化するためのRPAツールを導入するに至りました。まだ導入から日が浅いという段階ですが、既に1日15分ほどの時間削減に繋がっているとのことです。

事例2:介護サービス B社

既にシフト管理・請求業務ツールを導入していたものの、訪問介護業務の細分化などにより今までのツールでは対応が追いつかない状態であったB社。そのため、職員の事務作業の負担が多く、残業時間はむしろツール導入前より増えていることに課題を感じていました。
そこで事務作業を効率化させるため、ICタグとスマートフォンを利用した介護記録システムを導入しました。これまで紙ベースで介護実績などを管理していましたが、訪問先に貼付したICタグにスマートフォンでタッチするだけで、サービス開始と終了時刻が正確に記録されるように。介護記録もスマートフォンから入力できデータ化されたことで、転記作業などの事務処理時間を大幅削減することに成功しました。その結果、本来の介護業務である、利用者様と接する時間が増えたという効果も表れたとのことです。

事例3:食品卸・飲食業 C社

業務委託として請け負っていた店舗運営の営業権を買取り、卸問屋の直営店として新規開業したC社でしたが、経理業務や営業成績管理の負担が大きく経営上必要な店舗のプロモーションなどに充てる時間が確保できていない状況でした。
そこで顧問税理士からの提案で、補助金を活用し会計システムとWebサイト制作ツールの2つを導入することで、経理業務の省力化とWebサイトによる店舗プロモーションの両方に成功しました。人手不足も課題に挙がっていましたが、Webサイトに求人情報を載せたことでアルバイトの問い合わせが増え、課題解決に役立ちそうとのことです。

まとめ

事例を見ていただいてもわかる通り、IT投資となる対象は大規模なシステム導入やWebを活用した販促なども含め様々な種類があるため、会社の状況や抱えている課題によって「何を優先的に投資するか」を決めることになります。もし候補となる投資対象が幾つもある場合、業務プロセスの見直しがまだ甘い可能性があります。課題が明確になればなるほど、導入すべき設備やツールの選択肢は絞られてくるのが一般的であるからです。
投資を検討される際には、まずは業務プロセスを見直した上で「IT投資によって解決できそうな課題」を明確になるまで洗い出し、その上で補助金などを活用して効果的な投資を行うことが、費用対効果の高いIT投資を行うためのポイントになるでしょう。
また、都道府県によっては商工会議所でIT導入支援の相談窓口が設置されています。もし社内で課題を洗い出すことが難しいという場合は、外部の力を借りることも検討されてはいかがでしょうか。

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