電子記録債権(でんさい)とは?仕分けや会計処理について解説

公開:2017年12月04日

更新:2022年01月31日

「でんさい」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。でんさいとは、「電子記録債権」の略称です。
手形や売掛債権を電子化しただけのものと想像される方も多いかもしれませんが、実は、手形や売掛債権で発生しがちな問題点を解決できる新しい金銭債権のことです。取引先との間に発生する請求・支払い手段の効率化を図るために創設されました。
今回のコラムでは、「電子記録債権」について、その内容と利用するメリットなどをご紹介します。

【目次】

  • 電子記録債権(でんさい)とは
  • 電子記録債権の仕訳と会計処理|勘定科目について
  • 電子記録債権のメリット
  • 電子記録債権のデメリット
  • 電子記録債権の「でんさいネット」利用方法
  • 電子記録債権(でんさい)のまとめ

電子記録債権(でんさい)とは

電子記録債権とは、中小企業の資金調達の円滑化等を図ることを目的に、平成20年12月施行の電子記録債権法のもとで創設された新しい金銭債権のことです。電子債権記録機関の記録原簿への電子記録をその発生・譲渡等の要件としています。

中小企業の中には、取引先との決済に手形を用いる企業も多く、それに関連して売掛債権を多く保有する場合も少なくないのではないでしょうか。

ただ、手形や売掛債権等の債権には、次のような問題がありました。

  • 手形の作成や交付、手形用紙の保管にコストがかかる
  • 紛失・盗難のリスクがある
  • 記載事項が限定される
  • 分割が不可である
  • 譲渡対象債権の不存在・二重譲渡のリスクがある
  • 売掛金等の債権譲渡を行う為には、債務者への通知等が必要である

これらの問題を解決できる方法が、「電子記録債権」です。

電子記録債権のスキーム

電子記録債権は、債務者・債権者の両方が金融機関を経由して電子債権記録機関に「発生記録」を請求し、電子債権記録機関が対応することで発生します。(図1-①)

電子記録債権を譲渡する際には譲渡人・譲受人の両方が電子債権記録機関に「譲渡記録」を請求し、電子債権記録機関が対応することにより、取引を成立させる仕組みです。(図1-②)

電子記録債権は金銭債権であるため、債務者の金融機関から債権者の金融機関に送金等による支払いが行われる(図1-③)と、消滅します。債権者・債務者の取引金融機関から電子債権記録機関に決済情報が通知される(図1-④)と、電子債権記録機関は「支払等記録」を行い、電子記録債権を消滅させる仕組みです。(図1-⑤)

電子記録債権とファクタリングの違い

電子記録債権とファクタリングはいずれも、金銭債権を譲渡し、期日到来前の現金化を行うための仕組みです。電子債権記録機関に管理されている電子記録債権は第三者に譲渡して、現金化できます。ファクタリングにおいてはファクタリング業者に対して一定の手数料を支払い、金銭債権を譲渡することによって、期日到来前の現金化を行うことが可能です。

ただし、電子記録債権・ファクタリングには、以下のような違いが存在します。

取引先が増加した場合の手間

電子記録債権では取引先の金融機関が電子債権記録機関のネットワークに参加している場合、新規口座を用意する手間なく、取引を開始できます。ファクタリングはファクタリング業者との個別取引であるため、取引先が増加する都度、ファクタリング業者を交えた契約が必要です。

債務不履行に到った場合の責任

電子記録債権を譲渡する場合、譲渡する企業は保証人として扱われるため、債務不履行に到った場合は譲渡する企業が支払義務を負います。ファクタリングにおいては、ファクタリング業者に金銭債権を譲渡しているため、債務不履行に到った場合はファクタリング業者が支払い義務を負います。

電子記録債権の仕訳と会計処理|勘定科目について

電子記録債権の会計処理は、手形債権に準じた形で取り扱うものとされます。売掛金や買掛金など貸借対照表上、指名債権と区別して記載される取引については、「電子記録債務」「電子記録債権」などの勘定科目を使用して会計処理を行います。

たとえば、1,000円の商品を掛払いによって取引するにあたって電子記録債権を発生させ、事後に消滅させる場合の会計処理は、以下の通りです。

債権者

借方 貸方
商品の売買 売掛金 1,000 売上 1,000
電子記録債権の発生 電子記録債権 1,000 売掛金 1,000
電子記録債権の消滅 現金 1,000 電子記録債権 1,000

債権者側の会計処理では、電子記録債権が発生すると、通常の売掛金が電子記録債権に置き換わります。債務者の金融機関から債権者の金融機関に送金等による支払いが行われると、電子記録債権は現金に置き換わる流れです。

債務者

借方 貸方
商品の売買 仕入 1,000 買掛金 1,000
電子記録債権の発生 買掛金 1,000 電子記録債務 1,000
電子記録債権の消滅 電子記録債務 1,000 現金 1,000

債務者側の会計処理も、流れとしては同様です。通常の買掛金が電子記録債務へと置き換わり、送金等による支払いを済ませると、電子記録債務が消滅します。

電子記録債権のメリット

電子記録債権は手形の発行回収の多い企業にとって、メリットの大きい金銭債権です。手形を電子記録債権に変更することで、以下のようなメリットが得られます。

  • 電子データの送受信等により債権の発生・譲渡が可能なため、交付時のコストを軽減できる
  • 電子データで管理できるため、保管時のコストを軽減できる
  • 電子債権記録機関の記録原簿によって管理されるため、盗難・紛失のリスクを軽減できる
  • 任意的記録事項が許容される
  • 分割が可能になる

電子記録により債権の存在や帰属が明確化されます。

電子記録債権のデメリット

電子記録債権は歴史の浅い金銭債権であるため、手形ほどの認知度を持ちません。そのため、すべての取引先が内容を理解しているとは限らず、手形からの全面切り替えがスムーズに進まない可能性があります。

そのほか、電子記録債権のデメリットは、以下の通りです。

  • システムトラブルなどを受けて、電子データの送受信等に影響が生じるリスクが皆無とは言えない
  • 電子記録債権を利用するためには、金融機関ごとに指定された手数料が必要である
  • 電子記録債権を利用するためには会計処理の見直しが必要で、手形の発生回収の少ない企業にとってはメリットが薄い

電子記録債権を利用するための手間を考慮すると「すべての企業にとってメリットが大きい」とは言えないため、よく考えて、利用するかどうかを判断しましょう。

電子記録債権の「でんさいネット」利用方法

でんさいは次のような方法で利用できます。ここでは、全銀行参加型の「でんさいネット」についてご紹介します。

  1. (1)窓口金融機関を通じてインターネットバンキングを利用、あるいは記録請求依頼書を提出して、利用者登録を行う。
  2. (2)利用承認通知が届いたら利用可能。
  3. (3)でんさいの発生
    1. 窓口金融機関を通じ、でんさいネットの記録原簿に「発生記録」を行う。
      • 発生記録とは:債務者情報・債権者情報・債権金額・支払期日・決済方法・記録番号等
  4. (4)でんさいの譲渡
    1. 窓口金融機関を通じ、でんさいネットの記録原簿に「譲渡記録」を行う。必要に応じて債権を分割して譲渡することもできる。記録原簿に「分割記録」を行う
      • 譲渡記録とは:譲渡人情報・譲受人情報等
      • 分割記録とは:親債権には分割後の債権金額・子債権の記録番号等子債権には発生記録・債権者情報・債権金額・子債権の記録番号・親債権の記録番号等
  5. (5)でんさいの支払い
    1. 支払期日になったら、自動的に支払企業の口座から資金が引き落とされ、納入企業の口座へ払い込まれる。支払いが完了したら、でんさいネットが「支払等記録」を記録。

でんさいネットに対しては、発生記録請求、譲渡記録請求、分割記録請求をすることができます。また、でんさいネットを利用するには利用料がかかる点については留意しておきましょう。

電子記録債権(でんさい)のまとめ

ここまで、電子記録債権(でんさい)について解説してきました。改めて、今回のポイントをまとめます。

<このコラムのPOINT>

  • 電子記録債権(でんさい)とは、電子記録債権法の施行に伴って創設された金銭債権のこと
  • 電子記録債権は企業の資金調達を円滑化するための有効な手段である
  • 手形や売掛債権で発生する保管コスト・紛失、盗難リスクなどの問題を解消できるメリットがある
  • その一方で、システムトラブルの影響が皆無とは言い切れない点もあるなど、すべての企業にメリットがあるわけではない

中小企業などの事業者が円滑に資金を調達するために創設された電子記録債権は、集金や支払い業務の効率化や事務手続などにかかるコストの削減を図ることができ、安全かつ迅速に経理事務を行うことができます。

なお、電子記録は社内の各種書類にもニーズがあります。でんさいと同様に電子化で、注文書や契約書等の電子保存(電子帳簿保存法への対応)を検討している企業様は、電子記録を実現する当社ソリューションの「電子帳票システムe-image」をぜひご利用ください。e-imageで管理している帳票データは、閲覧・検索・二次利用のほか、高度な検索機能で必要な帳票をすぐに見つけられ、業務の大幅な効率化も期待できるため、おすすめです。

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