部下を育てる権限委譲(エンパワーメント)とは

後進の育成や部下教育として、また組織のパフォーマンスを高める手段として、部下に権限の一部を与えて仕事を任せる「権限委譲(エンパワーメント)」を検討しているリーダー層、マネジメント層は多いと思います。しかし、どのように部下に仕事を任せたらいいのか、部下の業務にどこまで指示を出していいのかわからず、なかなか踏み切れない人もいるのではないでしょうか。
今回の記事では、部下が持っている能力を発揮させ、パフォーマンスを最大限高める「権限委譲(エンパワーメント)」についてご紹介します。企業の競争力を高める手法として検討されている経営者の方も、是非ご一読ください。

権限委譲(エンパワーメント)とは何か

企業や組織における「権限委譲(エンパワーメント)」とは、これまで管理者が持っていた権限を社員に委譲しつつ、自発的に行動できるような環境作りやサポートも同時に行うことを意味しています。その目的は、社員一人ひとりのパフォーマンスを最大限に引き出すことにあります。

昨今、企業を取り巻く環境はIT技術の進歩やグローバル化など、目まぐるしく変化しています。企業の競争力がより求められる中、ほかの企業から自社が一歩抜きんでるためには、素早い意思決定と柔軟な対応力が必須と言えるでしょう。では、素早い意思決定をするにはどうしたらいいのでしょうか。
そのひとつの答えは、社員全員が高い自主性や判断力を持ち、重要な決断を瞬時に行えるようにすること、つまり「権限委譲(エンパワーメント)」を経営手法として取り入れることです。

権限委譲の失敗例としてよく挙げられるのが、「部下の業務に細かい指示を出す」というケースです。そうすると部下は「任せてくれると言ったのに、どうして自由にやらせてくれないのか」「ひょっとして自分は信用されていないのかも?」と感じ、自分の能力を活かした行動ができなくなってしまいます。その結果モチベーションが下がり、部下の自主性まで損なわれてしまう危険性があります。そうした事態を防ぐためにも、これからご紹介するメリットやデメリット、失敗しないためのポイントを理解しましょう。

権限委譲のメリット・デメリット

まずは、権限委譲を取り入れた際のメリットとデメリットをご紹介します。

権限委譲のメリット

権限委譲が企業や組織の中でうまく機能すると、以下のようなメリットが生まれます。

  • 社員の自律性や自発性が高まる
  • 社員のモチベーションがアップする
  • 社員のマネジメント力や発想力が向上する
  • 組織全体の意思決定が迅速化される
  • 組織全体の業務効率がアップする

権限を委譲された部下には「自分の意思や発想で物事を決定する」という権限が与えられます。自分が下した判断により結果が変わる可能性があるということは、プレッシャーでもありますが、責任ある仕事を任されたことで自発的に物事に取り組むようになるでしょう。その結果、問題解決能力が高まったり、今までになかった自由な発想が生まれたりすることで、顧客満足度向上、イノベーション創出といった効果が考えられます。
また、上司の指示を仰がず部下が自分で考えて決断できるようになることで、企業全体における「時間のロス」が解消され、業務効率アップにも繋がります。委譲した側の上司も業務負担が軽減されることで、新しい仕事に取り組めることでしょう。

権限委譲のデメリット

反対にデメリットとしては、以下のようなことが考えられます。

  • 企業、組織の方向性や目標にズレが生じてしまう可能性がある
  • 上司(管理者)間が承知していない事柄が出てくる可能性がある
  • 委譲された社員がストレスフルな状態となる危険性がある

個々の社員が自分の意思で決定を下すことによって、その判断が企業の方向性とずれてしまう可能性もあります。これは、権限委譲のメリットである「自由な意思決定」のマイナス面と言えるでしょう。また、会社や組織の運営に関わる大きな権限を任されることで、それをプレッシャーに感じ、逆に十分なパフォーマンスを発揮できないということも起こる可能性があります。過剰な期待は大きなストレスとなり、モチベーション低下を招くことにもなるため注意が必要です。

権限委譲を失敗しないための3つのポイント

部下に権限委譲を試みた際、陥りがちな失敗があります。代表例は、「任せた」とは言うものの、その後部下の業務方針に細かい指摘をしてしまうことです。これに関しては先ほど少しご説明しましたが、「口うるさい上司」が登場してしまうと部下のモチベーションは上がらず、部下が本来持っている能力を発揮しきれません。反対に、権限と責任を全て部下に委譲するいわゆる「丸投げ」も、失敗する例です。
以下では、権限委譲を成功に導くための3つのポイントを紹介します。社員一人ひとりが主役になるためのノウハウを抑えておきましょう。

ポイント1:上司自身の意識改革

部下の業務に細かい指示を出してしまう…。会社や部下を思う気持ちがあれば、ある意味当然の行動かもしれません。しかし、一度権限委譲をしたら、業務に時間がかかっていたり、小さなミスが目立ったりしても、「部下の判断を見守る」よう、上司自身が意識改革をすることが必要です。
「部下の業務を見守る」「業務の“アシスト”はしても、“口出し”はしない」「部下の判断を尊重する」といった意識改革ができれば、部下の成長を促すことができるでしょう。

ポイント2:社員一人ひとりに合った目標設定と権限委譲

社員の中には、会社や組織の運営に関わる大きな権限を任されることでそれをプレッシャーに感じ、逆に十分なパフォーマンスを発揮できない方も少なからずいます。上司は普段から、部下の性格や強み、ウィークポイントを把握しておきましょう。権限の委譲を実行する際は、そもそも権限を適切に行使できる能力があるのかなどをしっかりと見極め、社員一人ひとりに合った目標設定を行った上で権限委譲を行うと良いでしょう。上司と部下とで「どこまでを部下の判断に任せるのか」「どんな状況になったら上司の判断を仰げばよいか」をあらかじめ決めておくと、部下が不安にならず積極的に行動できるのではないでしょうか。

ポイント3:情報共有の意識づくり

デメリットとしてご紹介した「企業、組織の方向性や目標にズレが生じてしまう」を未然に防ぐには、企業全体のビジョンやミッション、その仕事が企業にとってどんな目的を持ったものなのかを共有し、理解を深めることが大切です。そのためにも、判断や決断をする際に必要な情報は、全て共有しましょう。進むべき方向性が見えることで、反対に企業や組織としてやらないこと・やってはいけないことが明確になります。これにより部下は、明確となった範囲の中で自由に動くことができるでしょう。
また、サポートすべき社員を早く見つけるためにも、定期的にミーティングを設ける、「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」といった基本的な情報共有の仕組みを作ることが大切です。

まとめ

権限委譲(エンパワーメント)は、部下に業務の権限を委ねることで、迅速な意思決定や部下自身の成長を促すことができます。しかし、権限委譲を実行するには、部下の同意と共感が不可欠です。上司の独りよがりではなく、「部下一人ひとりの特性を見極め、権限を委譲したことで部下が成長し、最終的に業務や組織のパフォーマンスが向上する」と判断出来たうえで実践する必要があります。
まずはしっかり話し合い、上司も部下も明確な意思をもった上で権限委譲を進めていくようにしましょう。

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