驚愕の計算力に大注目の量子コンピューター

「従来のコンピューターで1万年かかる作業が、わずか1秒で完了する」。こんな驚愕の計算力を持つ量子コンピューターの実用化がすでに始まっています。

量子コンピューターとは

従来のコンピューターは電子回路を作り、あらゆる情報を「0」と「1」の数字を表すビットに置き換え、その組合せで計算します。量子コンピューターも量子ビットと呼ばれる数字を利用するのは同様ですが、量子力学の現象を利用して、「0」でもあり「1」でもある状態を作り出します。
例えば、従来のコンピューターの3ビットでは、「000」から「111」までの8個の数字のうち1個だけを表せますが、3量子ビットの場合8個の数字をすべて同時に持つことができます。これはたくさんの計算をまとめてできることを意味していて、量子ビットが増えるに連れて数字は倍々に増えて、40量子ビットなら1兆個の数字を同時に持てます。
量子コンピューターは私たちの普段使っているような万能型のコンピューターというよりは、一つの機能、膨大な数の組合せから最適な組合せを導き出す「組合せ最適化問題」に特化した専用機と言えます。
宅配便のルートを例にすると、5軒の家に荷物を届ける場合、最短ルートを割り出すには「5×4×3…」と計算して120通りから選ぶ必要があります。これくらいなら従来のコンピューターでも計算できますが、軒数が10軒になると組合せは約360万通り、15軒だと1兆3000通り以上と、軒数が増えるたびに爆発的に計算量が増加します。30軒になると組合せは1京の1京倍になり、スーパーコンピューターでも計算におよそ8億年かかります。
量子コンピューターは従来のコンピューターのように全ての組合せを計算して比較するのではなく、量子ビットのエネルギーが最も安定した状態を見つけて瞬時に答えを導き出すため、計算するデータが増えれば増えるほど、従来のコンピューターとの能力差が開きます。
実際に量子コンピューターを導入したNASA(米航空宇宙局)と米国のテクノロジー大手企業は、「量子コンピューターは従来のコンピューターよりも最大1億倍も速く組合せ最適化問題を解ける」と評価しています。

量子コンピューターの活用分野

量子コンピューターの実用化はすでに始まっていて、様々な分野での活用が予想されています。

【1】治療薬の開発
新しい治療薬の開発は、数千万以上の物質を試しながら効果のあるものを探すため、天文学的な回数の計算が必要になり、1つの医薬品開発にかかる費用は失敗も含めると2,700億円に上るとも言われています。しかし、量子コンピューターを活用すれば、膨大な数の化学物質の機能を調べるシミュレーションも短時間でできます。失敗は減り開発も速まるため、最終的な薬の販売価格も安くなると期待されています。

【2】AI開発
すでにAI(人工知能)は将棋のプロに勝利したり、病気の診断に利用されたりしていますが、さらに高度化するために膨大なデータを機械学習する必要があります。量子コンピューターを使えばこの機械学習も飛躍的に進むと見られていています。完全自動運転の自動車やスマートフォンに搭載されるAIも、量子コンピューターを利用した開発でもっと賢くなるかもしれません。

他にも金融業界でリスクを回避しながらの分散投資シミュレーションや、都市全体の自動車の効率的なナビゲーションシステムの開発など、様々な分野での活用が予想されます。

利用されるメイドインジャパンの技術

現在、量子コンピューターの研究・開発で先を行くのはアメリカ・中国です。しかし、実用化されている量子コンピューターには、日本の研究者が発表した「量子アニーリング」という理論が基礎として利用されています。ほかにも日本の研究者は量子コンピューターの基礎となる分野での研究成果を幾つも挙げています。実用化が始まっている量子コンピューターには多くのメイドインジャパンの技術が活用されているのです。

まとめ

世界各地で開発競争が進む量子コンピューター。日本でも官民一体となって研究が進められています。多くの研究成果を挙げている日本の技術が量子コンピューターの分野でも世界をリードできるよう期待されます。また、何よりも実用化を通して、私たちの日常生活がより豊かになることに期待しましょう。

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