ダイナミック・ケイパビリティとは?これからの時代を生き抜くための経営戦略

新型コロナウイルス感染症の拡大や急速なITの技術革新などにより、目まぐるしく変化しているビジネス環境。こうした時代の変化と共に企業にも変化が求められ、「ダイナミック・ケイパビリティ」という言葉が注目されています。
このコラムでは、ダイナミック・ケイパビリティの概要や導入事例、実現するための方法まで、詳しく紹介していきます。

このコラムを読んで分かること

  • ダイナミック・ケイパビリティの概要と注目されている背景
  • ダイナミック・ケイパビリティ事例4選
  • ダイナミック・ケイパビリティを発揮する上で大切な2つの方法

【目次】

  • ダイナミック・ケイパビリティとは
  • ダイナミック・ケイパビリティを構成する3つの能力
  • ダイナミック・ケイパビリティが企業に必要な理由
  • ダイナミック・ケイパビリティとオーディナリー・ケイパビリティ
  • 参考になるダイナミック・ケイパビリティ事例
  • ダイナミック・ケイパビリティを培い発揮するための方法
  • まとめ

ダイナミック・ケイパビリティとは

「ダイナミック・ケイパビリティ」は、2020年5月に発表された「2020年版ものづくり白書」の中で紹介され、注目されました。ものづくり白書の中では、「ダイナミック・ケイパビリティとは、環境や状況が激しく変化する中で、企業がその変化に対応して自己を変革する能力のこと」と記載されています。


では「自己を変革する」とは、一体何を、どのようにして変えていくのでしょうか。
自己の変革は、既存の事業戦略や経営方針など、企業の軸となっている考え方・価値観などが時代や環境とズレが生じていないかを、前向きな視点でかつ批判的に検討するところから始まります。そして、現状を環境にあわせる、つまり競争で優位にたてるポジションを見極め、企業の経営資源を迅速に再構築・再編成することが変革になります。
その結果、新たな付加価値が生まれ、企業は淘汰されることなくさらに発展していくことができる、となるのです。

ここでポイントとなるのは、ダイナミック・ケイパビリティは「0(ゼロ)」から「1」を作り上げる能力ではないという点です。既存の資源をいかにうまく活かすかが大切であり、大きな付加価値を生むために資源を組み合わせたり、組み替えたりすることで化学反応を起こすことが大切になります。そして、組み合わせる資源は自社のみにとらわれず、必要であれば他社の資産や知識も活用します。相互の力が結びつくことでより大きなメリットが生まれることが、ダイナミック・ケイパビリティであるといえます。

カリフォルニア大学バークレー校のデイヴィッド・J・ティース氏によって提唱された理論であり、企業経営のフレームワークでもあるダイナミック・ケイパビリティは、不明瞭なビジネスにおいて、企業の道標となるようなものでもあり、製造業界を中心に注目を集めています。

ダイナミック・ケイパビリティを構成する3つの能力

提唱者のティース氏は、ダイナミック・ケイパビリティを次の3つの能力に分類しています。

(1)感知(センシング)
(2)捕捉(シージング)
(3)変容(トランスフォーミング)

ここからは、この3つの能力について詳しく紹介していきます。

(1)感知(センシング)

感知(センシング)とは、脅威や危機を感じ取る能力のことです。
顧客ニーズの変化や競合他社の動向など、移り変わるビジネス環境を観察・分析し、起こりそうな脅威・機会を察知する能力を指します。

(2)捕捉(シージング)

捕捉(シージング)とは、競争力を獲得する能力のことです。
企業の価値創造のための機会を逃さず、保有する人材・資産・知識・技術を応用し、有効活用する能力を指します。

(3)変容(トランスフォーミング)

変容(トランスフォーミング)とは、感知し捕捉して得られた競争力を、この先もさらに成長させるために、組織全体を再編成しながら変革していく能力のことです。
変化し続けるビジネス環境に、迅速かつ柔軟に対応しビジネスを最適化していく能力とも言えます。

ダイナミック・ケイパビリティが企業に必要な理由

これら3つの能力で構成されているダイナミック・ケイパビリティが企業に求められる理由について、2020年版ものづくり白書では「世界中での不確実性の高まり」を挙げています。
まさに今、アメリカと中国の間で生じている貿易摩擦、新型コロナウイルス感染症の拡大、ロシアのウクライナ侵攻など、様々な世界情勢の影響によってビジネス環境は不安定な状況が続いています。そのほか、自然災害の頻発や急激な技術革新など、現代はいつ何が起こるかわからない時代になりつつあるとも言えるでしょう。

だからこそ、見通しが立たない時代を前提として、企業も経営戦略を練る必要があります。もし、予測できない事態が起きたとしても、動じることなくその時々に合ったビジネスの最適化を図ることが求められているのです。
つまり、しなやかにリスクに対応し、自己変革で窮地を乗り切るダイナミック・ケイパビリティは、「VUCA(Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)」と呼ばれる現代のビジネス環境にマッチする企業経営に必要な能力と言えるのではないでしょうか。

ダイナミック・ケイパビリティとオーディナリー・ケイパビリティ

さて、「ケイパビリティ」とは、一般的には能力や才能という意味を持っており、企業の「ケイパビリティ」は、これまでご紹介してきた「ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)」と「オーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)」に分けられます。

「オーディナリー・ケイパビリティ」とは、できるだけ無駄を削減し、企業経営に必要なリソースを効率的に使いながら、企業の利益の最大化を目指す能力のことです。
例えば、優秀な人材、業務を効率化するための設備、企業としてのノウハウなど、こうした経営資源を活かすことで、生産稼働率や商品在庫日数の適正化を図ります。

企業経営にはもちろん、オーディナリー・ケイパビリティを高めることも重要です。しかし、オーディナリー・ケイパビリティは、予想外の変化に対応する能力が弱く、また、ほかの企業に模倣されるリスクがあります。さらに、変化することによるコストなどを懸念して、現状維持を選んでしまうケースがあります。そのため、現在のVUCA時代においては、適応していないのかもしれません。

これからの流動的な時代を企業が生き抜くためには、既存の枠に囚われず、自社を変革するダイナミック・ケイパビリティが必要なのではないでしょうか。

参考になるダイナミック・ケイパビリティ事例

ダイナミック・ケイパビリティをより理解するためには、様々なものづくり企業での事例を参考にするのがおすすめです。ここでは、ダイナミック・ケイパビリティを取り入れて、大きな成果をあげている企業の取組事例を紹介します。

化学メーカーA社

かつて写真フィルムの生産が主な事業の柱であったA社は、90年代のデジタルカメラ普及に伴って経営難に陥りました。しかしA社はこの際、自社の利益や株主価値の最大化を目指さず、自社にある優秀な技術など、既存の経営資源の活用を決定しました。
具体的には、写真フィルムの生産過程で得てきた化学品技術のノウハウや知見を活かし、液晶保護フィルムの開発・生産に注力。既存事業からの変革に成功しました。
その他にも、画像処理とAIを組み合わせた技術を、医療を中心とした分野に提供したり、写真の乾燥を防ぐために用いていたコラーゲンの技術を活かして化粧品やサプリメントといった製品の開発に成功したりと、写真フィルムが事業の柱であった時代よりも大きな利益をあげています。

空調機器製造販売業B社

国内外に100以上の生産拠点を構え、家庭用・業務用の空調機を専門に取り扱うB社。
空調機は気候変動や季節によって需要が大きく左右されることもあり、需要を見越して商品の製造を行うと、冷夏や暖冬の場合に在庫を抱え込んでしまうというリスクがあります。また、そうした場合の価格競争によって、製品の売上が落ち込めば企業としての打撃となるため、不確実性に備える必要がありました。

そこでB社は「市場最寄化戦略」を実践。ローカライズとグローバライズのバランスがとれる汎用性の高いベースモデルを開発し、そのベースモデルをもとに各地域に合わせた製品をカスタマイズする形を採用したのです。
「市場最寄化戦略」によって、生産ラインの要素をモジュール化でき、工場の素早い立ち上げ・稼働が可能になりました。この戦略が功を奏して、不確実性の高い空調機事業でも製品の作り置きをせずに済み、各地域の気候特性あわせてカスタマイズされた空調機を素早く供給できることで利益の最大化を図っています。

大手鉄鋼メーカーC社

大手鉄鋼メーカーのC社は、2000年に電気事業法が改正され電力の小売りが自由化されることを感知し、そこを勝機と捉えました。実はC社は、以前より製鉄の過程で生じるガスを利用して自家発電をしていたため、ノウハウを持っていたのです。
C社は自家発電にて蓄積されていたノウハウを利用し、本格的に発電事業を展開した結果、国内で最大級の独立系発電事業者(IPP)となっています。

大手衣料品ブランドD社 x 大手家電量販店E社

世界各国にも店舗を構える大手衣料品ブランドのD社と、大手家電量販店を手掛けるE社は、当時のインバウンド需要拡大を見越して、お互いの資源を活用する取り組みを行いました。
2社のコラボレーションによって生まれたのは、一つの建物内に家電と衣料品が共存している商業施設。ターゲットである外国人観光客の購買欲を刺激するような配置を意識し、また、この施設でしか買えないオリジナル商品をつくることで、両社の売上拡大につなげました。

ダイナミック・ケイパビリティを培い発揮するための方法

それでは、企業がダイナミック・ケイパビリティを培い発揮するためには、どのような方法が重要になってくるのでしょうか。それは大きく2つ、「DXの推進」と「多様性のある人材の確保」です。ここでは、それぞれについて解説していきます。

DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進

ダイナミック・ケイパビリティには、DXが必要不可欠です。DXがなぜ必要なのかというと、ダイナミック・ケイパビリティにおける3つの能力、「感知」「捕捉」「変容」それぞれの能力を高めることができるためです。

脅威や危機を感じ取る能力である「感知」は、デジタル技術によるデータの収集・分析によって洗練されていきます。収集したデータをデータベース化することで、激しく変化しているビジネス環境下であっても、その時々に合ったビジネスの最適化を図れるでしょう。
また、経営状況を即時に把握できるように、自社内の情報を可能な限りデジタルデータに移行しておくことは、「捕捉」する力を高めることに繋がります。
そして、組織全体を刷新しながら企業変革させる能力である「変容」に関しては、経営をデジタル上に移行するDXの取組こそが「変容」のひとつと言えるのです。

多様性のある人材の確保

そして、ダイナミック・ケイパビリティを実現するためには、様々な消費者ニーズを掴む必要があり、多様性のある人材の確保も重要です。偏りのない属性・感性・技術・能力を持った人材を採用し育成することで、組織の風通しがよくなり、企業を変革する力が自然に培われ、ダイナミック・ケイパビリティを発揮しやすくなるでしょう。

まとめ

ここまでダイナミック・ケイパビリティについて解説してきました。今回の内容を改めてまとめます。

<このコラムのPOINT>

  • ダイナミック・ケイパビリティとは、「環境、状況が激しく変化する中で、企業がその変化に対応して自己を変革する能力」のこと
  • ダイナミック・ケイパビリティを構成するのは「感知(センシング)」「捕捉(シージング)」「変容(トランスフォーミング)」の3つの能力
  • ダイナミック・ケイパビリティを培い発揮するためにはDX推進と多様性ある人材の確保が重要

ダイナミック・ケイパビリティとは、不確実な現代のビジネスにおいて、多くの企業に必要となる能力であり、経営戦略理論です。見通しの立たない未来に備えるべく、DX推進と併せてダイナミック・ケイパビリティを培い発揮していくことで、企業の発展を臨めます。

今回ご紹介した事例なども参考に、ぜひ自社のDXも検討してみてください。
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