未来人材ビジョンとは?求められる人材やどんな取組が必要なのかも解説

デジタル化の推進やカーボンニュートラル実現などの世界的な取組により、これまでの産業構造や労働需要、人材政策のあり方が変わっていくと予想されています。また、経済産業省は、日本の生産年齢人口が2022年の7,400万人から、2050年には5,300万人まで大きく減少するという予測も出しています。

未来に待ち受けるこのような状況に対応するために、経済産業省は2030年、2050年に向けた、今後の人材政策について検討するための「未来人材会議」を主催し、2022年5月末に「未来人材ビジョン」を公表しました。

公表から1年が経過し、国会でも「個人のリスキリング(学び直し)の支援に5年で1兆円を投じる」との表明があっただけでなく、首相の別の発言には賛否両論が集まっているなど、様々な意味で注目が高まっています。

本コラムでは、改めて未来人材ビジョンの概要や公表された背景、未来人材ビジョンの具体的な施策等を解説していきます。将来必要とされる人材を輩出するための、雇用・人材育成や教育の方向性を知るためにも、ぜひ参考にしてみてください。

このコラムを読んで分かること

  • 未来人材ビジョンで求められる人材像
  • 日本がこれから向かうべき2つの方向性について
  • 雇用・人材育成、教育における多様化の必要性

【目次】

  • 未来人材ビジョンとは
  • 未来人材ビジョンで求められる人材とは
  • 未来人材ビジョンを実現するために必要な取組
  • 未来人材ビジョンの今後の展望
  • まとめ

未来人材ビジョンとは

「未来人材ビジョン」とは、日本の未来を支える人材を育成・確保するための大きな方向性と、今後取組むべき具体策を示した将来像のことです。

経済産業省が取りまとめたこの「未来人材ビジョン」は、2030年、2050年に起こるだろう産業構造の転換を見据え、今後の日本における人材政策について検討するための「未来人材会議」で議論された内容を踏まえて作られました。公表された資料には様々なデータが入っており、その内容からは衝撃的とも言える現在の日本の人材に関する実態が浮き彫りとなっています。

ではなぜ2022年に「未来人材ビジョン」を公表したのか、その真意を見ていきましょう。

未来人材ビジョンが公表された背景

「未来人材ビジョン」が公表された背景は、大きく2つあります。

(1)将来の不確実性

1990年代から2000年にかけて起こったIT革命以降、新型コロナウイルスの流行も影響し、デジタル化が大きく加速しました。また、AI技術やロボットの進化、ビックワードとなっているDX(デジタル・トランスフォーメーション)の効果もあり、デジタル化は加速度的に進展しています。
また、2000年頃から注目されるようになった脱炭素化やカーボンニュートラルが、一気に世界的なトレンドになりました。
このような時代の変化により、産業構造や雇用状況が大きく変わろうとしています。

例えば、会計・庶務などの事務に従事する職種は自動化可能確立が高い、つまりAIやロボットで代替しやすいとの結果が出ており、「日本の労働人口の49%が将来自動化される」と予測されています。また、脱炭素化により石炭やガスなどの「化石燃料関連産業の雇用は大きく減少する」との予測もあります。

未来人材ビジョン「脱炭素化による雇用創出・喪失効果」(経済産業省)
【出典:未来人材ビジョン「脱炭素化による雇用創出・喪失効果」(経済産業省)

これらのデータから、職種と産業における労働需要バランスが大きく変わっていくことが予想され、今ある職種・産業が将来も残っているとは安易には言い難い状況であると推測されているのです。

(2)必要とされる能力・スキルの変化

未来人材ビジョンに掲載されている「意識・行動面を含めた仕事に必要な能力等」を見ると、仕事に必要な能力は56項目あるとされています。現在(2015年時点)はその中でも、「注意深さ・ミスがないこと」「責任感・まじめさ」などが重視されていますが、これが2050年になると一変し、「問題発見力」や「的確な予測」、「革新性(新たなモノ、サービス、方法等を作り出す能力)」が求められると予想されているのです。

未来人材ビジョン「56の能力等に対する需要」(経済産業省)
【出典:未来人材ビジョン「56の能力等に対する需要」(経済産業省)

しかし、今後求められる能力を身につけるための準備や取組が、現時点で進んでいるとは言い難い状況も明らかになっています。未来人材ビジョンに書かれていたインパクトのある文章がこちらです。
『企業は人に投資せず、個人も学ばない。』

未来人材ビジョン「人材投資(OJT以外)の国際比較(GDP比)」ならびに「社外学習・自己啓発を行っていない人の割合」(経済産業省)
【出典:未来人材ビジョン「人材投資(OJT以外)の国際比較(GDP比)」ならびに
「社外学習・自己啓発を行っていない人の割合」(経済産業省)

つまり、世界に比べ日本の経営層は人材投資の関心が薄く、人事戦略が経営戦略とリンクしていないということです。また、社外学習・自己啓発を行っていない人の割合が46%と、世界と比較してもダントツに高いという結果が出ています。
このままでは、日本の競争力は低下の一途をたどってしまうことが予想されます。

企業だけでなく個人も、そして学校・官公庁も現実を認識し、将来のためにできることを議論するきっかけにして欲しい、自分ごととして考えてほしい想いから、「未来人材ビジョン」が公表されたのではないでしょうか。

未来人材ビジョンで求められる人材とは

未来人材ビジョンには、これから求められる人材像が示されています。次の社会を切り開く若い世代に対しては、基礎能力や高度な専門知識だけではなく、下記の4つの能力を身につけて欲しいと挙げています。

  1. 常識や前提にとらわれず、ゼロからイチを生み出す能力
  2. 夢中を手放さず一つのことを掘り下げていく姿勢
  3. グローバルな社会課題を解決する意欲
  4. 多様性を受容し他者と協働する能力
  5. 引用:「未来人材ビジョン」(経済産業省)

これらは、与えられる教育や学習をただ受け入れているだけでは得ることが難しい、根源的な意識や行動面に至る能力や姿勢が求められていることがわかります。
このような人材が活躍できる社会になるように、そして、このような人材を増やし「人財」にしていくために、企業として個人として何ができるかが、問われているように感じます。

未来人材ビジョンに必要な取組と具体策

未来人材ビジョンでは、雇用・労働から教育まで社会システム全体の見直しが必要だと訴えています。そして、これから向かうべき方向性として下記の2本の柱を示しています。

  1. 旧来の日本型雇用システムからの転換
  2. 好きなことに夢中になれる教育への転換
  3. 引用:「未来人材ビジョン」(経済産業省)

では、ここからはそれぞれの柱について詳しく解説するとともに、具体策をご紹介します。

1.旧来の日本型雇用システムからの転換

「旧来の日本型雇用システムからの転換」には、『人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値の向上につなげる経営のあり方』である人的資本経営の推進と、働き手と企業・組織が「選び、選ばれる」関係への変化が必要です。
また、外国人も含めた多様な人材を確保し、スキルを活かして活躍する社会への変化が必要となります。

かつて順風満帆であった経済成長の下では、日本型の雇用形態を維持しながら、製造業を中心として、日本は国際的な競争力を維持してきました。その日本型雇用形態の特長は、「終身雇用を前提とした新卒の一括採用と長期的な観点からの人材育成、年功型賃金」です。
しかし、1990年代から日本の経済成長が低迷し、右肩上がりの成長を見込んで作られた日本型雇用形態の限界が見え始めました。

こういった状況を打開するためには、人的資本経営に舵をきり、終身雇用や年功型賃金体系に代表される日本特有の終身雇用制度、それに伴う新卒一括採用などの雇用戦略を改めなければなりません。

ここからは、従来の日本型雇用システムからの転換に必要な取組を紹介します。

(1)人的資本経営にシフトする

「人的資本経営」とは、人材を管理の対象となる「人的資源(消費する資源)」ではなく、投資すべき資本と捉えて教育や育成などを行い、価値を高めて企業の成長につなげる経営戦略のことです。「未来人材ビジョン」が掲げる人材を育てるためには、人的資本経営にシフトすることが望まれています。
しかし、現状は、投資家の67%は人材投資を重視しているにも関わらず、企業は32%しか重視していません。

未来人材ビジョン「中長期的な投資・財務戦略において重視すべきもの」(経済産業省)
【出典:未来人材ビジョン「中長期的な投資・財務戦略において重視すべきもの」(経済産業省)

最新の設備やITも、使いこなせる人があってこそ活きてくるはずです。労働力不足が低下の一途を辿る日本だからこそ、業務効率化や生産性向上のために設備やITへ投資することだけでなく、人材に目を向ける意識改革が求められています。

(2)企業と個人が対等な関係を築く

日本ではこれまで、新卒一括採用されてから定年を迎えるまで、1つの企業内に個人を囲い込むような雇用コミュニティーが一般的でした。しかし産業構造や雇用状況が大きく変わり始め、個人の価値観・ニーズも多様化する今、企業と個人がお互いに「選び選ばれ」の対等な関係を築くことが求められています。
これは、人を管理の対象であるという捉え方・発想からの転換とも言えますし、先程ご紹介した人的資本経営にとっても重要な考え方です。

具体的な取組としては、採用の入口を増やす、間口を広げることが挙げられます。

  • 新卒を一括して採用するだけでなく中途採用・通年採用を行う
  • 職種や配属先を提示した上でそのスキルを持つ人材を採用する職種別採用や、予め決められた職務内容(ジョブ)に基づいて必要な人材を採用するジョブ型採用などを取り入れる

このように採用の多様化や複線化を進めることが考えられます。

また、「兼業や副業の推進」も、企業と個人が対等で良好な関係を築くための一つです。
兼業・副業を考える方の中には、収入補填だけを目的とされている場合もあるかと思います。しかし最近では、自分の能力を企業の枠にとらわれず発揮したい、本業以外の仕事を通してスキルアップを図りたいというニーズも生まれています。そういった働き手の多様な価値観を尊重する一つとして、「兼業・副業」という働き方が注目されているのです。

専門人材を確保したい企業の想いと働き手の想いが、兼業・副業という形を通してWin-Winの関係をつくる。そのためには、リモートワークやフレックスタイムの実施などの環境整備だけでなく、政府も含めた人事労務施策の推進が求められます。

2.好きなことに夢中になれる教育への転換

未来人材ビジョン実現に必要な取組のもう一つの柱である、「好きなことに夢中になれる教育への転換」とは、右にならえの画一化された詰め込み式の教育を改め、自発的にアクションを起こすことです。
「自ら育つ」環境を作るためには、教育を以下2つの機能に分けレイヤー構造とすべきだと、未来人材ビジョンでは提唱しています。

  1. 「知識」の習得
  2. 「探究(”知恵”)力」の鍛錬
未来人材ビジョン(経済産業省)
【出典:未来人材ビジョン(経済産業省)

この2つのレイヤー間を循環することで自らの能力・スキルを高めることができるとされています。
ここからは、この構造を実現するための具体策をみていきましょう。

(1)年齢や場所、時間を問わず自由に学べる環境作り

知識を習得する方法としては、国語や算数などを先生から授業を通して学ぶ、教科学習があります。効率的に基礎知識を得られるメリットがあるものの、何かを「深く知りたい」という探究心の芽生えに対して、その答えやヒントとなる知識を得られる接点の整備が求められています。
例えば、企業の研修教材や大学講義資料などをデジタルプラットフォーム上で公開し、誰でもアクセスできるようにするなどです。

実際に、経済産業省が「『未来の教室』STEAMライブラリー」というオンライン図書館を運営しています。民間事業者や大学、研究機関などが連携し様々なコンテンツを配信。気候変動や海洋汚染をテーマとしたコンテンツだけでなく、昔話や童話を科学的に紐解くなど、年齢を問わず自身の「ワクワク」を探究するきっかけの場となっています。

(2)デジタルの活用による先進的な取組

探究学習により時間をかけたいと思っていても、知識の習得に必要な教科学習に時間を割かざるをえないというのが、今の教育現場の課題です。そのような課題に、ITやデジタルの力で解決する取組が進んでいます。
ある中学校では基礎学力を伸ばすため、AI教材を導入。生徒の習熟度をAIが判断し、理解度にあわせた問題が出題されるというものです。先生は進捗を確認しながら、つまずいている生徒をフォローすることができます。AI教材の効果により、授業時間は半分に短縮。創造的な学習に時間をあてることができました。

タブレットやパソコンなどICTの活用により、コロナ禍でも学ぶ機会を与え続けることができ、意欲的な学習ができたなどのメリットも生まれました。今後はAIなども活用した先進的な学習方法を取り入れていくことで、教育現場の負担軽減と効率化が図れることが期待できるでしょう。

~ちょこっとメモ:未来人材ビジョンの実現に向けた取組 補助金による助成 ~

経済産業省は、企業が高等教育機関において自社の人材育成や学生の教育等を行う「共同講座」を設置する支援として、「共同講座創造支援事業費補助金」を設けています。この補助金を通して、産業界のニーズに即した⼈材育成の加速化を図る取組が始まっており、いくつもの共同講座が誕生しています。
その一つが、三菱電機株式会社と慶応義塾大学大学院による、「システムアーキテクト研修」講座です。
本講座はシステム全体を俯瞰し、将来の統合ソリューションシステムをデザイン・構築・提案できる人材を育成するため、体系的なシステムアーキテクト教育を習得する場として設定されました。

共同講座創造支援事業費補助金についてはこちらよりご確認ください

未来人材ビジョンの今後の展望

「未来人材ビジョン」で提唱された人材を育成し確保するためには、雇用・労働に対する企業の考え方だけでなく、教育、そして日本の税制・社会保障制度そのものも変えていく必要があります。それは、義務教育から高等教育・大学を経て企業に入りそこで終える、そういった現在のシステムを変え、採用の多様化、リスキル・リカレント教育がし易い環境整備、兼業・副業が当たり前の社会へ生まれ変わるということです。

実現には、雇用・人材育成と教育システムという枠組みを超えて議論する必要があります。しかし、その議論が始まるのを待つのではなく、「未来人材ビジョン」や「人材版伊藤レポート2.0」に書かれた多くのヒントを参考に、企業として何ができるか、ぜひ考えていきましょう。

例えば、多くの企業で行われている「インターンシップ」を、今よりも積極的に活用してはいかがでしょうか。具体的には、博士課程の大学院生を対象とした「ジョブ型研究インターンシップ(※)」制度に参加する、学修の深化や学習意欲の喚起に繋がるインターンシッププログラムを考えるなどが挙げられます。

ジョブ型研究インターンシップとは、企業で長期間かつ有給で研究インターンシップに参加し、その評価によって単位を修得する制度のこと

冒頭でご紹介した「個人も学ばない」裏には、「学びたくても学べない、何を学べば良いのかがわからない」など様々な要因が考えられます。個人としての学びの意欲があってこそではありますが、学ぶ意欲を掻き立てるための支援を企業は進めていくべきでしょう。
そのためにも経営戦略から人事戦略を策定し、「何を学んで欲しいか」の棚卸しを行いましょう。その上で、いつでも主体的に学べるようeラーニング講座を提供したり、ワークショップを開いたりしましょう。
また、学びの成果を処遇や報酬と連動できるよう、評価制度を見直すなどの検討もおすすめします。

まとめ

ここまで、未来人材ビジョンの概要や提言された背景、実現に必要な取組などについて解説してきました。
本コラムのポイントをまとめます。

<このコラムのPOINT>

  • 未来人材ビジョンで求められる人材は「常識や前提にとらわれず、ゼロからイチを生み出す能力」「夢中を手放さず一つのことを掘り下げていく姿勢」「グローバルな社会課題を解決する意欲」「多様性を受容し他者と協働する能力」の4つ
  • 人財を生み出すために日本が進む方向性は「旧来の日本型雇用システムからの転換」「好きなことに夢中になれる教育への転換」の2つ
  • 人を大切にする企業経営へのシフトが企業には求められている

不安に感じるような調査結果がいくつもありましたが、裏を返せば、一歩先んじれば他の企業よりも優位に立つことができるということです。
企業が人材を大切にし、人に投資する方向へ舵を切る人的資本経営について、考えていただくきっかけにしていただければ幸いです。
また、人材を大切にするという根底には、性別・立場に関わらず育児/介護休暇をとりやすく、安心して復職できる環境づくりや、従業員ひとりひとりのキャリアプランを共に考える体制作りなどが必要です。
それぞれの選択が尊重できる職場作りを進めてみてはいかがでしょうか。

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